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【ソムメモ】品種探求シリーズ#9『リースリング その4』栽培と醸造【ソムリエ解説】

【ソムメモ】品種探求シリーズ#9『リースリング その4』栽培と醸造【ソムリエ解説】

最終更新日: 2025年1月16日

ようこそ、「品種探求シリーズ」へ!
このシリーズでは、ワイン初心者の方にもわかりやすく、各ブドウ品種の魅力や特徴を解説しています。今回のテーマは、リースリングの醸造と栽培です。

リースリングは、冷涼な気候で育つことでその美しい酸味と繊細な香りを生み出す品種です。しかし、その魅力を最大限に引き出すためには、丁寧な栽培管理と高度な醸造技術が必要不可欠です。

この記事では、リースリングの栽培における難しさから、収穫の工夫、醸造でのステンレスタンクの使用や低温発酵の理由などを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。また、世界的に有名な造り手のこだわりについてもご紹介します。

リースリングの奥深い魅力を知ることで、次に飲む一杯がもっと特別に感じられるはずです。それでは、一緒に探求していきましょう!

内容概要

§1. 栽培の難しさ

・天候に敏感(冷涼気候での理想的な環境とリスク)
・病害虫への耐性とリスク(貴腐菌との関係)

§2. 栽培技術と工夫

・栽培密度と剪定(品質向上のための工夫)
・樹齢と収量の関係
・標高と斜面の重要性(冷涼気候での成熟促進)

§3. リースリングの醸造方法

・ステンレスタンクとオーク樽の違い
・低温発酵の重要性
・マロラクティック発酵を行わない理由

§4. 世界を代表するリースリング

・トリンバック(フランス・アルザス)
・エゴン ミュラー(ドイツ・モーゼル)
・ゲオルグ ブロイヤー(ドイツ・ラインガウ)
・グロセット(オーストラリア・クレアヴァレー)

§5. まとめ

§1. 栽培の難しさ

リースリングは、その酸味の美しさと香りの複雑さで高く評価される一方、栽培には高度な管理が求められる品種です。他の白ブドウ品種と比較して、冷涼気候での栽培に適しているため、特有の難しさがあります。


天候に敏感(冷涼気候での理想的な環境とリスク)

リースリングは冷涼気候で最もその魅力を発揮します。酸味の保持と香りの繊細さが、冷涼な環境でバランス良く表現されるからです。

理由:
酸味の保持: 冷涼な気候で成熟がゆっくり進むことで、酸味が保たれる。
香りの発達: 柑橘系、白い花、青リンゴのような香りが生まれやすい。
リスク: 成熟期に入ると霜や長雨、冷害の影響を受けやすく、収穫タイミングの見極めが非常に重要。


病害虫への耐性とリスク(貴腐菌との関係)

リースリングは、果皮が比較的厚めであり、物理的な病害への耐性は一定程度あるものの、多湿環境下では灰色カビ病(ボトリティス・シネレア)のリスクがあります。

リスク要因:
湿度の高い環境: 長雨や朝霧の発生が多い産地でリスクが増加。
果皮の厚み: 病害にはある程度強いものの、クラスター(房)の密度が高く、風通しが悪いと感染リスクが高まる。

しかし、ボトリティス菌が好影響を与えるケースも存在します。

貴腐ワインの生産: ボトリティス菌が適度に付着すると果汁が凝縮し、極甘口の貴腐ワイン(トロッケンベーレンアウスレーゼなど)が生まれる。

理想的な条件: 朝霧が発生し、日中に乾燥する特定の環境(モーゼルやソーテルヌなど)。


リースリングは、冷涼な気候に適応しやすく、果皮の厚さもありながら、湿度の高い環境では病害に注意が必要です。その繊細さゆえに、最適な環境と適切な管理の下でこそ、特有の酸味と香りを最大限に引き出すことができます。

§2. 栽培技術と工夫

リースリングは、その繊細な風味と高い品質で知られる一方、栽培には特有の技術と工夫が求められます。以下に、品質向上のための主なポイントを解説します。


栽培密度と剪定(品質向上のための工夫)

栽培密度: リースリングは、適切な栽培密度を保つことで、ブドウの品質を高めることができます。密植により競争が生まれ、ブドウ樹が深く根を張ることで、土壌からのミネラル吸収が促進され、風味豊かなブドウが育ちます。

剪定: 適切な剪定は、ブドウの収量と品質に直接影響を与えます。枝を長めに残し、誘引することで、日照と風通しを確保し、病害のリスクを軽減します。また、収量を制限することで、各房に栄養が集中し、風味が凝縮された高品質なブドウが得られます。


樹齢と収量の関係

樹齢: リースリングのブドウ樹は、若木よりも成熟した樹齢の高い木からの方が、より複雑で深みのある風味を持つブドウを生産します。一般的に、樹齢が高くなると収量は減少しますが、その分、品質の高いブドウが得られる傾向があります。

収量: 収量を適切に管理することは、品質向上に不可欠です。過剰な収量は、ブドウの風味や酸味の低下を招くため、剪定や摘果により適切なバランスを保つことが重要です。


標高と斜面の重要性(冷涼気候での成熟促進)

標高: リースリングは冷涼な気候を好むため、標高の高い地域での栽培が適しています。標高が上がると気温が下がり、昼夜の寒暖差が大きくなることで、酸味のしっかりとしたブドウが育ちます。

斜面: 南向きの斜面は、日照を最大限に受けることができ、ブドウの成熟を促進します。また、斜面の水はけの良さは、根の健全な発育を助け、病害のリスクを減少させます。特に、ドイツのモーゼル地方では、急斜面のブドウ畑が高品質なリースリングを生み出すことで知られています。


リースリングの栽培には、適切な栽培密度と剪定、樹齢と収量のバランス、そして標高や斜面の選定など、多くの要素が関与しています。これらの要素を総合的に管理することで、リースリング特有の高い酸味と豊かな風味を持つブドウを生産することが可能となります。

§3. リースリングの醸造方法

リースリングは、その繊細な風味と高い酸味を活かすため、醸造過程で特有の手法が用いられます。以下に、主な醸造方法とその影響を解説します。


ステンレスタンクとオーク樽の違い

ステンレスタンク: リースリングの醸造では、ステンレスタンクが一般的に使用されます。ステンレスは非反応性であり、ワインに外部の風味を付与しません。これにより、リースリング固有のフレッシュでフルーティーなアロマや高い酸味がそのまま表現されます。また、温度管理が容易で、低温発酵にも適しています。

オーク樽: 一方、オーク樽は微量の酸素供給と木材由来の風味(バニラやスパイスなど)をワインに与えます。しかし、リースリングの場合、オークの風味が品種特有の繊細な香りを覆い隠してしまう可能性があるため、使用は限定的です。一部の生産者が複雑さを加える目的でオーク樽を使用することもありますが、一般的にはステンレスタンクが好まれます。


低温発酵の重要性

リースリングの醸造では、低温発酵が重要な役割を果たします。発酵温度を低く保つことで、発酵が穏やかに進行し、フルーティーで華やかな香り成分が保持されます。具体的には、10〜15°C程度の温度で発酵を行うことが一般的です。これにより、リースリング特有の柑橘系や花のようなアロマが引き立ち、爽やかな味わいが実現します。


マロラクティック発酵を行わない理由

マロラクティック発酵(MLF)は、ワイン中の鋭い酸味を持つリンゴ酸を、より柔和な乳酸に変換するプロセスです。多くの赤ワインや一部の白ワイン(例:シャルドネ)で行われ、酸味を和らげ、バターのような風味を付与します。しかし、リースリングの場合、この工程は一般的に行われません。その理由は以下の通りです:

酸味の保持: リースリングの魅力は、その鮮明な酸味にあります。MLFを行うと酸味が和らぎ、品種特有のシャープさが失われてしまいます。

アロマの維持: MLFにより生成されるバターやクリームのような風味は、リースリングのフルーティーでフローラルな香りと調和しにくいため、避けられることが多いです。

微生物的安定性: MLFを行わないことで、リンゴ酸が残り、ワインの微生物的安定性が向上します。これにより、保存中の品質維持が期待できます。


これらの醸造技術と工夫により、リースリングはその品種特有の鮮やかな酸味と豊かなアロマを最大限に表現したワインとして仕上がります。

§4. 世界を代表するリースリング

リースリングは、世界各地で高品質なワインを生産する著名な生産者によって、その魅力が広く知られています。以下に、代表的な生産者の歴史、特徴、そして世界的な評価についてご紹介します。


トリンバック(Trimbach)

歴史と特徴:

1626年にフランス・アルザス地方で創業されたトリンバックは、13代にわたり家族経営を続けてきました。彼らのワイン造りは、「バランス! バランス! バランス!」という哲学に基づいています。これは、ワインの品質を決定づける3つの要素を完璧に調和させることを目指しています。

果実味のバランス:
熟した果実の自然な香り(シトラス、白桃、青リンゴなど)を引き出し、ワイン本来のフルーティーさを損なわないように造られています。

酸のバランス:
リースリングの生命線である酸味を大切にしつつ、尖りすぎず、心地よいフレッシュ感を保つことを重視しています。

ミネラルとボディのバランス:
アルザスの石灰質や粘土質土壌から生まれるミネラル感と、ふくよかな果実味のバランスを取ることで、長期熟成にも耐えうるエレガントな味わいを実現しています。

この「バランス」の哲学こそが、トリンバックのリースリングが長年にわたって高い評価を受け続ける理由のひとつです。

世界的な評価:

トリンバックのリースリングは、そのエレガントさと長寿命で知られ、和食を含む多様な料理と合わせやすいと評価されています。特に「クロ・サンテューヌ」は、限られた生産量ながら、その品質の高さから多くのワイン愛好家に支持されています。


エゴン・ミュラー(Egon Müller)

歴史と特徴:

ドイツ・モーゼル地方に位置するエゴン・ミュラーは、世界で最も高価なリースリングを生産することで知られています。彼らのワインは、特に貴腐ワインである「トロッケンベーレンアウスレーゼ」が有名で、その品質と希少性から高い評価を受けています。

世界的な評価:

エゴン・ミュラーのリースリングは、その卓越した品質と熟成能力により、世界中のコレクターや専門家から高い評価を受けています。特に、オークションなどで高値で取引されることが多く、その価値の高さが窺えます。


ゲオルグ・ブロイヤー(Georg Breuer)

歴史と特徴:

ドイツ・ラインガウ地方のゲオルグ・ブロイヤーは、19世紀後半に設立され、高品質なリースリングの生産で名を馳せています。彼らは、低収量と手作業による厳選を重視し、テロワールの個性を最大限に表現したワイン造りを行っています。

世界的な評価:

ゲオルグ・ブロイヤーのリースリングは、その純粋さとエレガンスで高く評価され、特に辛口のスタイルが多くの愛好家に支持されています。彼らのワインは、国際的なコンクールでも多数の賞を受賞しています。


グロセット(Grosset)

歴史と特徴:

オーストラリア・クレアヴァレーのグロセットは、1970年代にジェフリー・グロセット氏によって設立されました。彼らは、リースリングの品質向上に情熱を注ぎ、特に「ポーリッシュ・ヒル」と「スプリングヴェイル」の単一畑からのリースリングで知られています。

世界的な評価:

グロセットのリースリングは、その純粋な果実味と鮮明な酸味で国際的に高い評価を受けています。オーストラリア国内外で数々の賞を受賞し、その品質の高さが広く認知されています。


これらの生産者たちは、それぞれの地域の特性と伝統を活かしながら、リースリングの魅力を世界中に伝え続けています。

§5. まとめ

リースリングの品質は、冷涼な気候での繊細な栽培管理と、低温発酵やステンレスタンクを使用した丁寧な醸造によって生まれます。トリンバックの「バランス!」の哲学や、エゴン・ミュラーの貴腐ワインなど、生産者ごとのこだわりもリースリングの多様性を支えています。

シンプルながらも奥深いこのブドウの魅力を、次回はリースリングの楽しみ方をテーマに解説します。お楽しみに!

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