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【ソムメモ】品種探求シリーズ#4『ピノノワール その4』醸造と栽培【ソムリエ解説】

【ソムメモ】品種探求シリーズ#4『ピノノワール その4』醸造と栽培【ソムリエ解説】

最終更新日: 2024年12月18日

ようこそ、「品種探求シリーズ」へ!
このシリーズでは、ワイン初心者の方にもわかりやすく、各ブドウ品種の魅力や背景をお伝えしています。ワインをもっと楽しむための知識やエピソードを、ソムリエならではの視点で丁寧にご紹介しています。

前回の「品種探求シリーズ」では、ピノノワールが世界中でどのように育てられ、それぞれの地域でどのような特徴を持っているかを探りました。ヨーロッパ、ニューワールド、アジアで育つピノノワールの個性を知ることで、この品種の多様性と奥深さを再発見する機会となりました。

今回は、ピノノワールの「醸造と栽培の秘密」に焦点を当てます。この品種が「挑戦者のブドウ」と呼ばれる理由や、それを克服するために生産者が行うさまざまな工夫について解説します。また、著名なワインメーカーのエピソードを通じて、ピノノワール造りにかける情熱や哲学にも触れていきます。

この記事を通して、ピノノワールが生まれるまでの物語や、それを支える生産者たちの努力を感じていただけると嬉しいです。それでは、ピノノワールの世界をさらに深く探求していきましょう!

内容概要

§1.栽培の難しさ

・天候に敏感
・病害虫への弱さ

§2.醸造の工夫

・低温発酵
・オーク樽の使用
・マセラシオン(果皮と果汁の接触時間)
・全房発酵

§3.自然派やビオディナミのピノノワール

・自然派ワインのトレンド
・ビオディナミ農法

§4.生産者の挑戦

・著名なワインメーカーのエピソード
 ティボ リジェ ベレール(フランス ブルゴーニュ)
 バス フィリップ(オーストラリア ヴィクトリア州)
 フェルトン ロード(ニュージーランド セントラルオタゴ)
 ハミルトン ラッセル(南アフリカ ヘルム エナード)

§5.まとめ

§1. 栽培の難しさ

ピノノワールは、世界中の生産者が挑戦し続けるブドウ品種のひとつです。その理由の一つが、この品種が非常にデリケートで栽培が難しいことにあります。栽培環境に敏感に反応するため、天候や病害虫の影響を受けやすく、「気まぐれな品種」とも呼ばれています。


天候に敏感

ピノノワールは冷涼な気候を好むブドウ品種ですが、天候の急激な変化や極端な条件にとても弱いという特徴があります。例えば、春先の霜害(フロスト)や雹(ひょう)が発生すると、芽が傷つき、収穫量が激減してしまいます。また、夏の暑すぎる日差しも、繊細な果皮を傷める原因となります。

さらに、収穫時期が近づくと雨が大敵になります。雨が続くとブドウが過剰に水を吸収し、果実が薄味になったり、腐敗が進んだりして品質に影響を与えます。そのため、生産者は天候の変化を注意深く観察しながら、最適なタイミングで収穫を行う必要があります。


病害虫への弱さ

ピノノワールの果皮は非常に薄く、他の品種に比べて病害虫の影響を受けやすいのが特徴です。湿度が高い環境では、灰色カビ病やうどんこ病といった病気にかかりやすくなります。また、虫害によってブドウが傷つくと、そこからカビが繁殖してしまうこともあります。

これらの問題に対処するため、生産者は畑の風通しを良くするために適切な剪定を行ったり、農薬や自然由来の資材を活用したりしてブドウを守っています。しかし、こうした作業には手間と費用がかかるため、ピノノワールの栽培は他の品種に比べて特に難易度が高いとされています。

§2.醸造の工夫

ピノノワールは、その繊細さゆえに醸造にも多くの工夫が求められます。ワインメーカーたちは、ピノノワールの特性を最大限に引き出すために低温発酵やオーク樽の使用、マセラシオン、さらに全房発酵といった技術を活用しています。それぞれの工程には、ワインの味わいや香りに大きな影響を与えるポイントがあります。


低温発酵

ピノノワールの発酵では、低めの温度で発酵を進める「低温発酵」がよく採用されます。この手法により、赤い果実やフローラルな香りが保たれ、フレッシュで爽やかな味わいを引き出すことができます。また、発酵が穏やかに進むことで、ワインの味わいがより洗練され、バランスの取れた仕上がりになります。繊細な品種であるピノノワールにとって、この工程は欠かせない工夫の一つです。


オーク樽の使用

ピノノワールは熟成の過程でオーク樽を使うことで、ワインにスパイスやバニラの香りを加えることができます。ただし、ピノノワールは繊細な品種のため、オーク樽の風味が強すぎると果実の個性を損なうリスクがあります。そのため、新樽と古樽を適切に組み合わせ、香りや味わいのバランスを取ることが重要です。オーク樽を使用したピノノワールは、より複雑で奥行きのある味わいが楽しめるのが特徴です。


マセラシオン(果皮と果汁の接触時間)

ピノノワールの色や構造を作り出す重要な工程が「マセラシオン」です。この工程では、果皮と果汁を接触させる時間を調整することで、果皮から色素やタンニンを抽出します。時間を短くすることで軽やかでフレッシュなスタイルに、時間を長くすることで深みのある味わいを持つワインに仕上げることができます。マセラシオンは、ピノノワールのスタイルを大きく左右する鍵となる工程です。


全房発酵

ピノノワールの醸造で注目される技術の一つが「全房発酵」です。この方法では、収穫したブドウを房ごと(果梗を取り除かず)発酵させます。果梗が発酵に加わることで、ワインに独特の複雑さやスパイシーな香り、さらに滑らかなタンニンを与えます。

全房発酵は、特にブルゴーニュの伝統的なワイン造りで採用されてきましたが、近年ではニューワールドの生産者たちもこの方法を取り入れるようになっています。この手法にはリスクも伴いますが、成功すれば非常に奥深いワインを生み出すことができます。全房発酵の割合をどれだけ取り入れるかは、生産者の哲学や目指すスタイルにより異なります。

§3.自然派やビオディナミのピノノワール

ピノノワールは、自然派ワインやビオディナミ農法の象徴的な品種としても注目されています。その繊細さとテロワールを反映しやすい特性が、これらのアプローチに非常にマッチしているからです。ただし、「自然派ワイン」という言葉には正式な定義がないため、使う際には注意が必要です。また、ビオディナミ農法には確立された哲学があり、近年ますます注目を集めています。


自然派ワインのトレンド

「自然派ワイン」という言葉は、明確な定義がなく、生産者ごとに解釈が異なるため注意が必要です。一般的には、化学薬品や添加物を極力使用せず、自然な方法で栽培・醸造されたワインを指します。しかし、この言葉を使用する際には、単なるマーケティング用語として使われる場合もあるため、その背景や生産者の哲学を確認することが重要です。

自然派ワインのピノノワールは、果実の純粋な味わいや香りを重視したスタイルが特徴です。ラズベリーやチェリーなどの赤い果実のアロマが際立ち、酸化防止剤(SO2)の使用を最低限に抑えたものが多いため、フレッシュで軽やかな飲み口のものが多いです。


ビオディナミ農法

ビオディナミ農法は、20世紀初頭にオーストリアの哲学者であるルドルフ・シュタイナーによって提唱されました。この農法は、月の満ち欠けや天体の動きに基づいて作業を行い、自然との調和を重視した独自の哲学に基づいています。シュタイナーの思想は、「農業全体をひとつの生命体として捉える」という考え方に基づいており、化学薬品を一切使用せず、自然の力を最大限に活用することを目的としています。

ピノノワールの栽培においても、この方法はテロワール(畑の個性)を明確に反映する手段として採用されています。ビオディナミ農法で育てられたピノノワールは、鮮やかな酸味や複雑な風味が特徴で、畑ごとの微妙な違いがワインにしっかりと現れると言われています。

ピノノワールが自然派やビオディナミ農法と特に相性が良いのは、その繊細さゆえに、農法や醸造方法の違いがワインの味わいに顕著に現れるからです。自然派ワインでは果実のピュアな味わいが引き立ち、ビオディナミでは土地の個性がさらに強調されます。

ただし、「自然派」という言葉が必ずしも品質を保証するものではない点や、ビオディナミ農法が生産者にとって挑戦を伴う選択である点も押さえておくべきです。

§4. 生産者の挑戦

ピノノワールは、世界中の生産者が情熱を注いで取り組むブドウ品種です。その栽培の難しさゆえ、品質の高いピノノワールを作るためには、生産者の哲学や創意工夫が重要です。ここでは、ピノノワールを手がける4人の著名なワインメーカーとその歴史、特徴、逸話を詳しくご紹介します。

著名なワインメーカーのエピソード

<ティボー・リジェ・ベレール(フランス・ブルゴーニュ)>

歴史と背景
ティボー・リジェ・ベレールは、フランス・ブルゴーニュ地方のニュイ・サン・ジョルジュを拠点とする新進気鋭の生産者です。家系は古く、19世紀から続くワイン造りの歴史を持っていますが、現当主のティボー・リジェ・ベレール氏が2000年にワイナリーを継承して以来、飛躍的な評価を得るようになりました。彼は伝統を守りつつも、現代的なアプローチを取り入れることで、新しいブルゴーニュの魅力を発信しています。

造りの特徴と逸話
ティボーは、畑ごとの個性を引き出すことに重きを置き、ビオディナミ農法をいち早く採用した生産者の一人です。全房発酵を多用し、テロワールの純粋な表現を追求しています。彼のワインは、力強さと繊細さが共存し、長期熟成に耐えうる構造を持つものが多いのが特徴です。

特にニュイ・サン・ジョルジュ地区にある1級畑「クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ」は彼の代表作であり、この畑から生まれるワインは、豊かな果実味とスパイシーな香り、洗練されたタンニンが絶妙なバランスを保っています。

逸話として、彼のワイン造りは非常に哲学的であり、「ワインは畑のエネルギーを伝えるもの」と語っています。彼のワインは、世界中のワイン愛好家やソムリエから注目されており、特に全房発酵の技術は多くの若手生産者に影響を与えています。

おすすめ商品
ヴォーヌ ロマネ オー レア
完熟したブラックチェリーやプラムの香りに、スパイスや森の土のニュアンスが広がるエレガントな一本。長期熟成も可能なピノノワールの傑作です。


<バス・フィリップ(オーストラリア・ヴィクトリア州)>

歴史と背景
1980年代に設立されたバス・フィリップは、オーストラリアの冷涼な地域ギプスランドで、最初期からピノノワールに特化したワイン造りを行ってきました。創業者のフィリップ・ジョーンズ氏は、ブルゴーニュスタイルのピノノワールを目指し、低収量と手作業を徹底的に守りながら、品質向上に取り組んできました。

造りの特徴と逸話
バス・フィリップのピノノワールは、自然酵母を使った発酵や無濾過での瓶詰めにより、ブドウの純粋な味わいを引き出しています。非常に収量を絞り、1ヘクタールあたりの収穫量は平均よりも大幅に少ないことが知られています。このアプローチにより、濃密で深みのあるワインが生まれます。

ある年、病害虫の被害に見舞われた際、品質を維持するために収穫量の70%を捨てるという決断を行い、その姿勢が業界で話題となりました。

【おすすめ商品】
プレミアム ピノノワール
熟した果実味と上品な酸味が調和した一本。ブルゴーニュを思わせる奥深い味わいです。


<フェルトン・ロード(ニュージーランド・セントラル・オタゴ)>

歴史と背景
1991年に設立されたフェルトン・ロードは、ニュージーランド・セントラル・オタゴ地方で初めてビオディナミ認証を取得したワイナリーです。創業者のナイジェル・グリーアム氏が掲げる「環境保全と品質の両立」という哲学は、今でもワイナリーの運営に深く根付いています。

造りの特徴と逸話
冷涼な気候と自然環境を最大限に活用するため、畑の管理にはビオディナミ農法を採用。土壌の健康を重視し、化学薬品を使用しないことで、テロワールの個性をワインに反映しています。フェルトン・ロードのピノノワールは、凝縮感のある果実味とスパイスの複雑な香りが特徴です。

設立初期、周囲から「ニュージーランドで本格的なピノノワールは難しい」と言われる中、高品質なワインを生産し、世界的な評価を確立しました。

【おすすめ商品】
バノックバーン ピノノワール
完熟した果実味とスパイスのニュアンスが融合した、飲み応えのあるピノノワール。


<ハミルトン・ラッセル(南アフリカ・ヘムル・エナード)>

歴史と背景
ハミルトン・ラッセルは、1975年に設立され、南アフリカの冷涼産地ヘムル・エナードに拠点を構えるワイナリーです。創業者のアンソニー・ハミルトン・ラッセル氏は、ブルゴーニュスタイルのピノノワールを南アフリカで再現することを目標にしました。

造りの特徴と逸話
冷たい海風が吹き込む独特の気候を活かし、エレガントで複雑なピノノワールを生産しています。徹底した品質管理と伝統的な技術により、力強さと繊細さを兼ね備えたスタイルを確立しました。

興味深い逸話として、1980年代に一度全てのブドウを失う大災害がありましたが、その後も情熱を持って再建を進め、現在では南アフリカを代表するピノノワール生産者として評価されています。

【おすすめ商品】
ヴィンヤード ピノノワール
豊かな果実味とスモーキーなニュアンスが特徴の、南アフリカを代表するワイン。

§5.まとめ

ピノノワールは、その栽培や醸造の難しさから「挑戦者のブドウ」とも呼ばれる品種ですが、多くの生産者がその魅力を追求し続けています。各地の生産者たちは、それぞれの哲学や技術を駆使して、唯一無二のワインを生み出しています。

ティボ リジェ ベレールのようにブルゴーニュの伝統を守りながらも進化を続ける生産者、バス・フィリップのように新天地でブルゴーニュに匹敵するワインを生み出そうとする挑戦者、そしてフェルトン・ロードやハミルトン・ラッセルのように土地の特性を活かし革新を追求する生産者。それぞれの努力や工夫は、ピノノワールの可能性を広げ、私たちに多彩な選択肢を提供してくれます。

また、自然派やビオディナミ農法といった持続可能な方法が広がる中で、ピノノワールはその繊細さゆえに、こうしたアプローチの象徴的な存在となっています。一杯のワインの背景には、土壌、気候、そして生産者の情熱が込められていることを感じていただければ幸いです。

次回の「品種探求シリーズ」では、ピノノワールの楽しみ方とおすすめワインについて深掘りします。適切なサーブ温度やグラス選びのポイント、料理との相性を最大限に引き出すペアリングのコツをお伝えします。さらに、初心者から上級者まで楽しめるおすすめのピノノワールもご紹介します。

次回も、ピノノワールの世界をより深く探求していきましょう!お楽しみに!

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