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【ソムメモ】品種探求シリーズ#13『カベルネ ソーヴィニョン その3』世界の産地【ソムリエ解説】

【ソムメモ】品種探求シリーズ#13『カベルネ ソーヴィニョン その3』世界の産地【ソムリエ解説】

ようこそ、品種探求シリーズへ!
カベルネ・ソーヴィニヨンは、世界中で最も広く栽培されている赤ワイン用ブドウ品種の一つです。その深みのある黒系果実のアロマ、しっかりとしたタンニン、豊かな酸味は、ワインの力強さと熟成ポテンシャルを象徴しています。

本記事では、カベルネ・ソーヴィニヨンの主要産地に焦点を当て、ヨーロッパの伝統的な産地であるボルドー地方から、アメリカ・チリ・オーストラリアといったニューワールド、さらには日本や中国といったアジアの新興産地まで詳しく解説します。それぞれの地域が生み出すカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴と多様性を知ることで、この偉大な品種への理解を深めていただければ幸いです。

§1. ヨーロッパの主要産地

・フランス(ボルドー地方)
 左岸
 右岸
・イタリア
・その他ヨーロッパ

§2. ニューワールドの主要産地

・アメリカ
 カリフォルニア州
 ワシントン州
・カナダ
・チリ
・アルゼンチン
・オーストラリア
・ニュージーランド
・南アフリカ

§3. アジアの新興産地

・日本
・中国
・インド
・タイ

§4. まとめ

§1. ヨーロッパの主要産地

フランス(ボルドー地方)

カベルネ・ソーヴィニヨンの本拠地であり、最も象徴的な生産地の一つがフランスのボルドー地方です。ボルドーはこの品種のポテンシャルを最大限に引き出す気候と土壌を備えており、カベルネ・ソーヴィニヨンの世界的評価を築き上げました。

左岸(Haut-Médoc、Pessac-Léognan)

左岸は、砂利質の土壌と温暖な気候の影響でカベルネ・ソーヴィニヨンが主体となります。砂利質土壌は水はけが良く、ブドウの根が深く伸びることで複雑味のある風味が生まれます。ワインは骨格のしっかりしたタンニンと黒系果実の凝縮感が特徴で、カシス、ブラックチェリー、杉の木、タバコなどの香りが感じられます。
熟成によりさらに複雑化し、レザーやトリュフなどのニュアンスも現れます。特に1855年のボルドー格付けで選ばれた「シャトー・ラフィット・ロートシルト」「シャトー・ムートン・ロートシルト」「シャトー・ラトゥール」などの一流シャトーは、カベルネ・ソーヴィニヨンの個性を表現した典型例です。

右岸(Saint-Émilion、Pomerol)

右岸ではカベルネ・ソーヴィニヨンの比率は低く、メルロ主体のブレンドが一般的です。しかし一部の畑では粘土石灰質土壌で栽培されるカベルネ・ソーヴィニヨンが使われることもあります。右岸のワインは、左岸に比べてタンニンが柔らかく、果実味の甘みが引き立つ傾向があります。

その他のフランス地域
ボルドー以外でもカベルネ・ソーヴィニヨンは栽培されています。

ロワール地方:
比較的冷涼な気候のため、軽やかでフレッシュな果実味が前面に出ます。

ラングドック・ルーション:
南仏の温暖な気候により、凝縮感のある果実味とシルキーなタンニンが特徴です。


イタリア

イタリアでカベルネ・ソーヴィニヨンが高く評価されるのは、特にトスカーナ地方とピエモンテ地方です。地場品種とのブレンドにより、イタリアならではの表情を見せています。

トスカーナ(スーパータスカン)

1970年代に登場した「スーパータスカン」は、伝統的なDOCGの規制に縛られず、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体とした革新的なワインを生み出しました。「サッシカイア」「オルネライア」「ティニャネロ」などが代表格です。
これらのワインは、熟した黒系果実のアロマと、カベルネ由来のタンニン、酸のバランスに優れ、樽熟成によるバニラやスパイスのニュアンスを持つのが特徴です。

ピエモンテ地方

ネッビオーロで知られるピエモンテ地方でもカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が広がっています。特にランゲ地域では、ネッビオーロの繊細さに対して、より果実味とタンニンの強さを補う役割としてカベルネが使われることがあります。


その他のヨーロッパ産地

スペイン:
カベルネ・ソーヴィニヨンは主にカタルーニャ地方(ペネデス)で広く栽培されています。
カタルーニャ地方では、テンプラニーリョやガルナッチャ(グルナッシュ)などの地元品種とブレンドされることが多く、果実の凝縮感とスパイスのニュアンスが特徴です。
また、リベラ・デル・ドゥエロやナバーラなどの地域でも、濃厚でパワフルなカベルネ主体の赤ワインが生産されています。

ドイツ
アイスワイン用として少量のカベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されています。

ブルガリア・ハンガリー
1980年代以降、カベルネ・ソーヴィニヨンは高品質ワインの象徴として広がり、果実味の豊かさとしっかりしたタンニンが評価されています。

スイス
ヴァレー地方などの冷涼気候で、繊細なスタイルのカベルネが生産されています。


ヨーロッパにおけるカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培は、ボルドーのクラシックなスタイルからトスカーナのスーパータスカン、スペインのモダンなブレンドまで多岐にわたります。地域ごとの気候や土壌、ワイン造りの伝統により、同じ品種であっても多様な味わいのワインが生み出されています。

§2. ニューワールドの主要産地

アメリカ

カリフォルニア州

カリフォルニア州は、カベルネ・ソーヴィニヨンのニューワールドにおける中心的な生産地です。特にナパ・ヴァレーが世界的に有名で、温暖な気候と多様な土壌がこの品種の成熟に理想的な条件を提供しています。

ナパ・ヴァレー:
濃厚でフルボディのワインが生産されます。カシスやブラックベリーの果実味に加え、オーク樽由来のバニラやシダーウッドの香りが特徴です。しっかりとしたタンニンと長期熟成のポテンシャルを持つワインが多く、世界的に高評価を受けています。

ソノマ・カウンティ:
ナパに比べてやや冷涼で、果実味と酸味のバランスが取れたエレガントなカベルネが生まれます。

ワシントン州

ワシントン州のカベルネ・ソーヴィニヨンは、カリフォルニアに比べてやや冷涼な気候で栽培されるため、酸がしっかりと感じられ、果実味が豊かなスタイルです。コロンビア・ヴァレーやワラワラ・ヴァレーなどが特に知られています。果実味と酸味、タンニンのバランスが良好で、熟成ポテンシャルも高いワインが造られます。


カナダ

カナダでは、主にオンタリオ州とブリティッシュ・コロンビア州でカベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されています。

オンタリオ州(ナイアガラ半島):
冷涼な気候のためカベルネ・ソーヴィニヨンは限定的に栽培されますが、温暖な年には酸がしっかりとしたフレッシュなスタイルのワインが生まれます。

ブリティッシュ・コロンビア州(オカナガン・ヴァレー):
カベルネ・ソーヴィニヨン単一で造られるフルボディのワインも多く、高品質なワインが増えています。


チリ

チリは、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に理想的な環境を備えており、特に中央渓谷のサブリージョンが高品質なワインの産地として知られています。

マイポ・ヴァレー
サンティアゴ近郊に位置し、カベルネの名産地として名高い地域。昼夜の寒暖差が大きく、豊かなカシス、ブラックベリー、ユーカリの香りが特徴です。フルボディでしっかりとしたタンニンを持つ、長期熟成型のワインが多く生産されます。

コルチャグア・ヴァレー
やや温暖で、果実味が強く、柔らかなタンニンが特徴です。樽熟成によるチョコレートやバニラのニュアンスが加わり、親しみやすいスタイルのワインが多くなります。

アコンカグア・ヴァレー
標高が高く冷涼な地域で、エレガントで酸のしっかりしたワインが生まれます。

フィロキセラ禍を免れた地域のため、未接ぎ木の古樹から造られるワインが多く、凝縮感のある風味と優れた熟成能力を持つワインが生まれます。


アルゼンチン

アルゼンチンのカベルネ・ソーヴィニヨン生産の中心はメンドーサ州にあります。アンデス山脈の麓に位置し、標高の高い畑での栽培が一般的です。

ルハン・デ・クージョ
標高900~1100mの高地で、昼夜の寒暖差が大きく、果実味と酸味のバランスが優れたワインが生まれます。

ウコ・ヴァレー
さらに標高が高く(1000m以上)、酸とミネラル感が強調されたエレガントなカベルネが特徴です。

標高の高さから得られる冷涼な気候が、カシスやブラックチェリーの果実味としっかりとした酸を生み出し、熟成にも適した構造のワインを造り出しています。


オーストラリア

オーストラリアのカベルネ・ソーヴィニヨンは、温暖な地域から冷涼な地域まで幅広く栽培されており、地域ごとの個性がはっきりと表れるワインが特徴です。

クナワラ(Coonawarra)
南オーストラリア州南東部に位置し、鉄分を含む「テラ・ロッサ(赤い土壌)」で有名。凝縮感のある黒系果実、ミントやユーカリの香り、豊かな酸とタンニンが特徴です。

マーガレット・リバー(Margaret River)
西オーストラリア州の温暖な海洋性気候の地域。エレガントでバランスの取れた果実味、上品な酸、細かいタンニンが特徴で、ボルドースタイルのブレンドにも適しています。

バロッサ・ヴァレー(Barossa Valley)
南オーストラリア州に位置し、温暖な気候からフルボディで濃厚な果実味、力強いタンニンが特徴のワインを生み出します。

オーストラリアのカベルネ・ソーヴィニヨンは、シラーズとのブレンドも多く、果実の凝縮感とスパイスのニュアンスを併せ持つワインが多いのが特徴です。


ニュージーランド

ニュージーランドのカベルネ・ソーヴィニヨンは、主に北島で栽培されていますが、冷涼な気候の影響で生産量は限定的です。

ホークス・ベイ(Hawke’s Bay)
北島の東部に位置し、ニュージーランドで最もカベルネの生産が盛んな地域。比較的温暖で、カベルネ・フランやメルロとのボルドースタイルのブレンドが多く、エレガントで果実味豊かなスタイルです。

冷涼な気候のため、ボルドースタイルのブレンドが中心ですが、単一品種のカベルネ・ソーヴィニヨンは酸味が際立ち、フレッシュな果実味と細やかなタンニンが特徴です。


南アフリカ

南アフリカのカベルネ・ソーヴィニヨンは、特にステレンボッシュを中心に生産されています。温暖で乾燥した気候がカベルネの成熟を促し、力強いワインが造られます。

ステレンボッシュ
南アフリカのプレミアムワイン産地で、力強いカシス、ブラックベリーの果実味と、豊かなタンニン、スパイスの香りが特徴です。

パール(Paarl)
やや温暖で、より柔らかいタンニンと豊かな果実味が感じられるカベルネが生産されます。

カベルネ・ソーヴィニヨンの品種特性を活かしつつ、力強い果実味としっかりした酸、タンニンのバランスが取れたワインが多く生産されています。


ニューワールドのカベルネ・ソーヴィニヨンは、フルボディで果実味豊か、力強いタンニンとしっかりとした酸が特徴です。温暖な地域では濃厚で力強いスタイル、冷涼地域ではエレガントで酸が際立つスタイルに仕上がる傾向があります。

§3. アジアの新興産地

アジアでもカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が徐々に拡大しており、特に冷涼な地域や高地での栽培が成功しています。ワイン文化の成熟と共に、国際市場での評価も高まりつつあります。


日本

日本のカベルネ・ソーヴィニヨン栽培は、主に本州の冷涼な地域で行われていますが、特に山梨県と長野県が中心です。

山梨県(甲府盆地):
温暖な気候と火山性の土壌に恵まれ、しっかりと熟したカベルネ・ソーヴィニヨンが生産されています。ただし、降水量が多いため、病害リスクが高く、管理の難しさも伴います。カシスやブラックチェリーの果実味に、程よい酸味と控えめなタンニンが特徴です。

長野県(塩尻市桔梗ヶ原):
高地の冷涼な気候で、酸とタンニンのバランスが取れたエレガントなスタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンが造られています。ブラックベリーやカシスに加え、ミントやハーブの香りが特徴的です。

日本のカベルネ・ソーヴィニヨンは、冷涼な気候と降水量の多さから、酸味が際立ち、タンニンは控えめでエレガントなスタイルが中心です。


中国

中国は、ワイン市場の急成長に伴いカベルネ・ソーヴィニヨンの生産が急速に拡大している注目の新興産地です。特に寧夏回族自治区と山東省が国際的に注目されています。

寧夏回族自治区(Ningxia)
黄土高原に位置し、乾燥した気候と昼夜の寒暖差がカベルネの栽培に理想的。ワインはしっかりとした果実味、豊かなタンニン、スパイスのニュアンスが特徴です。代表的なワイナリーには、「Helan Mountain」「Silver Heights」などがあります。

山東省(Shandong)
ボルドーと似た海洋性気候を持ち、柔らかく親しみやすいスタイルのワインが生産されています。青椒(ピーマン)やハーブの香りが特徴的です。

寧夏ではパワフルでタンニンがしっかりとしたボルドースタイル、山東ではフレッシュで柔らかな果実味のあるスタイルが見られます。


インド

インドでもカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が注目されています。特に標高の高いナシク地方が知られています。

ナシク・ヴァレー(Nashik Valley)
ムンバイ近郊に位置し、標高600~700mの高地にあるため昼夜の寒暖差が大きく、熟成感のあるフルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンが造られています。スパイス、ブラックベリー、ブラックペッパーの香りが特徴です。

温暖な気候ですが高地での栽培が中心となり、熟した果実味としっかりとしたタンニンを備えたワインが生産されています。


タイ

タイではワイン産地として新興ですが、ロフトワイン(高地ワイン)の生産が注目されています。

カオヤイ(Khao Yai)
標高400m以上の高地で、湿度が高くても風通しの良い場所に畑があります。果実味がしっかりしており、柔らかいタンニンの飲みやすいカベルネ・ソーヴィニヨンが造られています。

暑い気候ながらも高地で栽培されることで酸が保たれ、果実味豊かで親しみやすいスタイルです。


アジアのカベルネ・ソーヴィニヨンは、各国の気候や地理的条件に応じて多様な表現を見せています。

§4. まとめ

カベルネ・ソーヴィニヨンは、フランス・ボルドー地方を起源としながら、現在では世界中のワイン産地で栽培される最も広く知られた赤ワイン用ブドウ品種の一つです。その豊かな果実味と力強いタンニン、熟成ポテンシャルの高さから、産地ごとに異なる表情を見せる個性豊かなワインが生まれています。

ヨーロッパの主要産地
フランス・ボルドーの左岸では、深みのあるタンニンと熟成向きのカベルネが造られ、右岸ではメルロとのブレンドで柔らかさを引き出しています。イタリアではスーパータスカンとして単一品種のカベルネ・ソーヴィニヨンが注目され、スペインや東欧でも栽培が拡大しています。

ニューワールドの主要産地
アメリカ・カリフォルニア州ではナパやソノマを中心にパワフルで凝縮感のあるワインが造られ、チリのマイポ・ヴァレーでは果実味豊かで滑らかなスタイルが見られます。オーストラリアではクナワラやマーガレット・リバー、南アフリカのステレンボッシュでも優れたワインが生産されています。

アジアの新興産地
日本の山梨や長野、中国の寧夏では冷涼な気候を活かしたエレガントなカベルネが登場しています。インドやタイでも、標高の高い地域を中心にカベルネ・ソーヴィニヨンの品質向上が進んでいます。

カベルネ・ソーヴィニヨンは、地域のテロワールと栽培技術の違いによって、さまざまな表情を見せる奥深い品種です。次回は、カベルネ・ソーヴィニヨンの醸造と栽培について解説します。

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