はじめに

南西フランス（シュッドウエスト）地方は、フランスの豊かなワイン産地の一つであり、その多様な地形と気候によって多彩なワインが生産されています。この地域は、ボルドー地方の南西に位置し、ピレネー山脈からアトランティックオーシャンにかけて広がっています。シュッドウエストは、古くからのワイン生産の伝統を持ちながら、現代のワイン市場においてもその独自性と品質で高い評価を得ています。

本記事では、ソムリエ試験対策として、シュッドウエスト地方のワインに関する重要な情報を詳しく解説します。地域の概略、主要ブドウ品種、主要A.O.C.、VDN/VDLについての知識を深め、試験に向けた準備をしっかりと整えましょう。

目次

1.概略

2.主要ブドウ品種

3.主要A.O.C.

4.まとめ

1.概略

南西フランス（シュッドウエスト）地方は、フランスのワイン生産地の中で最も多様な地域の一つであり、ボルドーを除く広大な地域を含んでいます。約55,000ヘクタールのブドウ栽培面積を誇り、年間ワイン生産量は約363万ヘクトリットルに達します。

この地方のワインの歴史は長く、多様な変遷を経てきました。地元の川、特にガロンヌ川、ドルドーニュ川、ロット川、タルン川は、カオール、ベルジュラック、ビュゼ、ガイヤックなどの伝統的な産地からワインを市場へ運ぶ主要な交易ルートとして重要な役割を果たしてきました。これらのワインは、イギリスを始めとする多くの国々で高く評価されましたが、ボルドーの商人たちはこれらのワインを競争相手と見なし、ボルドーワインの優位性を確保するために強力な措置を講じました。

この歴史的背景により、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ソーヴィニヨン・ブランなどのブドウ品種が世界的に有名になる一方で、シュッドウエストのフェル・セルヴァドゥ、レン・ド・レル、タナなどの品種は比較的知られていません。

シュッドウエスト地方の土壌、気候、地形は非常に多様であり、大西洋と地中海の影響を受けた海洋性気候の地域もあれば、内陸部の乾燥した暑い夏を利用した大陸性気候の地域もあります。ガロンヌ川、ドルドーニュ川、ロット川、タルン川がもたらす沖積土（粘土、砂、砂利）を利用する地域も多くあります。他のブドウ栽培地域、例えばイルレギーやベアルン地方では、ピレネー山脈の急斜面や麓に広がる多様な石種や異なる標高と傾斜を利用しています。

シュッドウエスト地方のワインポートフォリオは極めて多様で、ジュランソンやモンバジヤックの甘口ワイン、カオールやマディランのタニックでフルボディの赤ワイン、ベルジュラック、コート・ド・ベルジュラック、ソシニャック、モントラヴェル、コート・ド・モントラヴェル、オート・モントラヴェル、コート・ド・デュラス、コート・ド・マルマンデのようなボルドーに似たワイン、ガイヤックのスパークリングワイン、そして幅広い辛口白ワインなどが含まれます。

近年、地元のワイン生産者はより商業的に焦点を当て、多様性を活かして冒険心旺盛な現代のワイン消費者を引きつける努力をしています。ボルドーが依然として商業的な影を投げかけていますが、もはや港を貿易ルートとして依存することはなく、シュッドウエストのワインは独自の特長をもって国際的な評価を得ることができます。

2.主要ブドウ品種

シュッドウエスト地方の主要ブドウ品種は、赤ワイン、白ワイン、ロゼワインのすべてに対応しています。以下に主要な品種を挙げます。

赤ワイン

タナ:
非常にタニックで、長期熟成が可能な力強いワインを生み出します。

カベルネ・フラン:
フレッシュな果実味と優れた酸味を持ち、バランスの取れたワインになります。

カベルネ・ソーヴィニヨン:
力強いタンニンとカシスの風味が特徴で、長期熟成に適しています。

メルロー:
柔らかいタンニンと豊かな果実味が特徴で、バランスの取れた赤ワインを生み出します。

ネグレット:
地元特有の品種で、フルーティーでスパイシーなワインを生み出します。

白ワイン

グロ・マンサン:
高い酸味とフルーティーな風味が特徴で、甘口から辛口まで幅広いスタイルのワインを生み出します。

プティ・マンサン:
貴腐ワインや遅摘みワインに使われることが多く、豊かなアロマと甘味が特徴です。

モーザック:
フルーティーでフローラルな風味が特徴の地元品種。

コロンバール:
フレッシュでフルーティーな風味を持ち、軽快な白ワインを生み出します。

ソーヴィニヨン・ブラン:
草のような香りとシャープな酸味が特徴で、爽やかな白ワインを生み出します。

ロゼワイン

主に赤ワイン用の品種を基にし、白ワイン用の品種もサポートとして使用されます。シュッドウエストのロゼは、フルーティーで爽やかなスタイルが多いです。

このように、シュッドウエスト地方のワインは、その多様なブドウ品種と気候条件により、非常に多様なスタイルのワインを提供しています。ソムリエ試験においても、この地域の特徴を理解することは重要です。

3.主要A.O.C.

ドルドーニュ川流域 / ベルジュラック地区

ボルドーを流れるドルドーニュ川の上流に広がる産地で、ボルドーとほぼ同じ品種が栽培されています。

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Bergerac（ベルジュラック）	RrB(辛)	複数品種ブレンド	ボルドーに似たワインが多い
Côtes de Bergerac（コート・ド・ベルジュラック）	RB(甘)	複数品種ブレンド	甘口の白ワインが有名
Pécharmant（ペシャルマン）	R	複数品種ブレンド	フルボディの赤ワイン
Montravel（モントラヴェル）	RB(辛)	R：メルロー主体 / B：複数品種ブレンド
Monbazillac（モンバジヤック）	B(甘)	複数品種ブレンド	貴腐ワインで有名
Saussignac（ソシニャック）	B(甘)	複数品種ブレンド	高品質の甘口ワイン
Rosette（ロゼット）	B(甘)	複数品種ブレンド	軽やかな甘口白ワイン

ガロンヌ川流域

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Saint-Sardos（サン・サルドス）	Rr	主要：シラー（40％以上）、タナ（20％以上）	トゥールーズ近郊のワイン
Fronton（フロントン）	Rr	主要：ネグレット	トゥールーズの北、ガロンヌ川とタルン川に挟まれた地域に位置

ロット川流域

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Cahors（カオール）	R	主要：コット（マルベック）（70％以上）	サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路に当たり、ロット川の蛇行に沿って東西60kmに広がる産地
Marcillac（マルシヤック）	Rr	主要：フェル・セルヴァドゥ（80％以上）	土壌はルージエと呼ばれる粘土石灰質または、石灰岩

タルン川流域

アヴェイロン川に合流し、その後ガロンヌ川とも合流するタルン川流域には、南西地方でベルジュラック、カオールに次いで大きなA.O.C.ガイヤックがあります。地中海性気候の影響による暑い夏と、海洋性気候の影響を受けた湿度が加わり、また、オータンと呼ばれる暑く乾燥した風により、ブドウの生育が促されます。

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Gaillac（ガイヤック）	RrB(辛)/B発泡	Rr主要：デュラス、フェル・セルヴァドゥ、シラー / B主要：レン・ド・レル、モーザック、モーザック・ロゼ、ムスカデル	発泡のGaillac Mousseuxは瓶内二次発酵で澱との接触期間は9ヵ月、残糖は50g/l まで
Gaillac Méthode ancestrale（ガイヤック・メソッド・アンセストラル）	B発泡	モーザック、モーザック・ロゼ	一次発酵のみで、発酵途中で瓶に詰め、リキュール・ド・ティラージュの添加は禁止 メトッド・アンセストラルにのみDouxの付記があり、その場合、残糖は50g/l 以上
Gaillac Doux（ガイヤック・ドゥ）	B(甘)	主要：レン・ド・レル、モーザック、モーザック・ロゼ、ムスカデル	甘口白ワイン
Gaillac Vendanges Tardives（ガイヤック・ヴァンダンジュ・タルディヴ）	B(甘)	主要：レン・ド・レル、オンダンク	遅摘みブドウからの甘口ワイン
Gaillac Premières Côtes（ガイヤック・プルミエール・コート）	B(辛)	主要：レン・ド・レル、モーザック、モーザック・ロゼ、ムスカデル	タルン川右岸の11町村限定、上級ガイヤック

ガスコーニュ＆バスク地区

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Madiran（マディラン）	R	主要：タナ（50％以上）	非常にタニックな赤ワイン
Pacherenc du Vic Bilh（パシュラン・デュ・ヴィック・ビル）	B(甘)	主要：クルブ、プティ・クルブ	高品質の甘口白ワイン
Pacherenc du Vic Bilh Sec（パシュラン・デュ・ヴィック・ビル・セック）	B(辛)	主要：プティ・マンサン、グロ・マンサン	辛口白ワイン
Jurançon（ジュランソン）	B(甘)	プティ・マンサン、グロ・マンサン	アンリ4世の洗礼に使われたと伝わる歴史的な甘口白ワイン
Jurançon Sec（ジュランソン・セック）	B(辛)		辛口白ワイン
Irouléguy（イルレギー）	RrB(辛)	R主要：カベルネ・フラン、タナ / B主要：クルブ、プティ・クルブ、グロ・マンサン、プティ・マンサン	バスクの影響を受けたユニークなワイン

リムーザン地区

A.O.C.名（読み方）	タイプ	品種	備考
Corrèze（コレーズ）	R	カベルネ・フラン主体	新興のA.O.C.
Corrèze Coteaux de la Vézère（コレーズ・コトー・ド・ラ・ヴェゼール）	RB	R：カベルネ・フラン / B：シュナン・ブラン	高品質の赤と白ワイン
Corrèze Vin de paille（コレーズ・ヴァン・ド・パイユ）	Br	複数品種あり、陰干ししたブドウから造られる

4.まとめ

南西フランス（シュッドウエスト）地方は、その多様なワインスタイルと豊かな歴史により、フランスのワイン産地の中でも特に注目されています。この地域のワインは、ユニークなブドウ品種とテロワールにより、多くのワイン愛好家から高い評価を受けています。ソムリエ試験対策として、シュッドウエスト地方の主要A.O.C.、ブドウ品種、VDN/VDLの特徴をしっかりと理解しておくことが重要です。

また、この地域のワインの歴史や地理的特性を知ることは、ボルドーとは異なるシュッドウエスト独自の魅力を理解する上で非常に有益です。シュッドウエストのワインは、その多様性と品質で、今後さらに国際的な評価を高めていくことでしょう。